目立たないけど気になったタニギキョウ
東北に春が来て山に入ると、杉林や雑木林の下で葉を出したり花を咲かせたりしている植物に出会います。
中には存在が目立たないのに印象に残る植物もあります。
山形市に抜ける紅花トンネルの手前の駐車場に車を止めて、谷川沿いの林道を歩きながら脇の叢を歩き回っているとき、群生して白い花を咲かせている植物を見かけました。
野草の多くは個性的で存在感があるものが多いのに、この花はそうした印象は持ちませんでした。
群生して咲いている光景だけが心に残りました。
アパートから車で数分の丘陵の麓にウスバサイシンの写真を撮りに行ったときにも、同じ花を咲かせる植物を見かけました。
この白い花の様子はオトメアゼナのような雰囲気です。
オトメアゼナは田んぼや沼の水面で繁茂するので生育場所が違います。
その花の名前もわからずに、数年間パソコンに入れっぱなしになっていました。
最近入会したfacebookの「雑木や野草のサークル」に投稿して名前を教えて貰おうかと思っていたとき、「日本の野草」(林弥栄編 山と渓谷社)をペラペラめくっていたら、この植物を偶然見かけました。
それがタニギキョウです。
特長がないキキョウ科のありきたりの植物のようです。
でも「www.chiba-muse.or.jp」には「山道沿いの湿った斜面に群生した純白の花。タニギキョウだ。直径1センチ弱の小さな花で、草丈は5センチほど。キキョウの仲間としてはとても小さな植物で、見過ごされやすい。だが、その清楚な美しさは春の山を彩る草花の中でも際立っている。この植物には面白い特徴がある。多くの草木が繁茂する夏に、タニギキョウは姿を消してしまうのである。花が咲き終わり5月になるとタニギキョウの茎や葉は枯れてしまい、6月から9月にかけては影も形も見当たらない。10月頃には新たな茎と葉が伸びて、そのまま冬を越し、4月に開花する。このような性質を『冬緑性(とうりょくせい)』という。他の草に覆い隠されてしまう夏を避け、競争相手の少ない冬に光合成を行うという生き方を選んだのである。まるで『我が道を行く』とでもいうような性質もタニギキョウの魅力である。(尾崎煙雄)」と記されていました。
カタクリ、ショウジョウバカマ、フデリンドウなどの「春の妖精(スプリング・エフェメラル)」の仲間に思われたのですが、これらは翌年の春まで休眠します。
10月に茎や葉が伸びる点で明らかに違っています。
白い花を咲かせるありきたりの地味な花だと思っていたのですが、植生はとても個性的なのですね。
私たちも目先の姿形でその人が個性的だと考え勝ちですが、見えない生き方そのものが個性的かどうか判断することが重要かもしれないなと再認識したものです。
(キキョウ科 タニギキョウ属)
カモ撮りこうちゃん