サクラとは思えなかったウワミズザクラ
何年か前まで山形、宮城、福島の3県を車で頻繁に行き来していました。
その県境では奥羽山脈の山越えをしなければなりません。
今では高速道路のトンネルがあって便利になりました。
それでも県境を越えた山脈の裾野は、森や雑木林が連なって、山麓から平地にかけて緑豊かな自然環境が見られます。
その春の山麓の道を走っていると、ところどころでヤマザクラが咲いています。
個人的には、公園などで咲き誇るソメイヨシノの豪華さよりは、薄茶色の若葉を出し、ぽつぽつと離れて咲くヤマザクラの方に風情を感じてしまいます。
山裾一面に咲くというよりは、緑の木々の間にところどころ咲いているのがヤマザクラなのです。
平安時代の詩歌に詠まれるのは、こんな風情からではないでしょうか。
そんな道を走ると、白い筒状の花が咲いているのを見かけます。
それもかなり目立つ花です。
車から見るとネコヤナギのようにも見えますが、それよりは白くて大きいのです。
それでもネコヤナギかカバノキの仲間ではないかと想像していました。
宮城県のサイカチ沼に写真を撮りに出かけた時、その花を見かけました。
筒状の花を構成している小さい花の1つをとって調べてみると、5枚の花弁を持ち、オシベとメシベがとても長いのです。
その花が集まると、1つの筒状の花(実際は総状花序)のようになって、ボアっとした雰囲気になります。
花弁の数からバラ科だと確認して、家に帰って植物図鑑でバラ科の花を調べてみました。
すると、何とウワミズザクラと記されていました。
サクラの仲間だったのです。
とても驚きました。
私が知っているサクラといえば、ソメイヨシノ、エドヒガン、カワヅザクラ、ヤマザクラなどがありますが、ヤエザクラなど花びらが重なっているものはあっても、サクラ一輪が一輪として存在しています。
ところがこのウワミズザクラは、小さな花が集まって、1個の大きな花のような様相なのです。
そんなサクラがあるのですね。
「日本の樹木」には、緑色の幼果を塩漬けにするほか、新潟ではつぼみの塩漬けを杏仁香(あんにんこ)と呼んで食用にすると記されています。
昔から、人々はこのウワミズザクラに親しんできたことが分かります。
サクラに対する認識が変わるきっかけになったのが、このウワミズザクラでした。
(バラ科 サクラ属 落葉高木)
参考文献 「日本の樹木」林弥栄 編・解説 山と渓谷社